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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
「はっ! なに、僕は弱すぎて絶対お前に勝てないからと、上から目線で哀れみでもかけているのか!? それとも馬鹿犬の遠吠えか!?」
「リュカは……そんな奴じゃねぇんだよ。そんな奴じゃねぇから……俺は姫様を託したんだよ。俺の心がわかる奴だから……だからお前、遠慮して今まで姫様に手を出さなかったんだろう?」
サクの声が震える。
どれだけ否定されても、それでもまだ信じたいという思いに溢れて、その激情に声音が揺れる。
「お前が姫様を幸せにすると宣言したから。だから俺、生涯お前の元に仕えようと思ったんだ。お前だから……リュカだから!!」
リュカの瞳が揺れていた。
ゆらゆらと……。
「お前の意志じゃねぇんだろ? なぁ……仮に忠誠心はなくとも、俺達の"友情"と姫様への"愛情"は真実のものだったんだろう?
だからお前、祠官の傍に居続けたんだろう? 今までずっと殺す機会はあったというのに!!」
「………」
「正直に言えよ。お前……苦しんでたんだろう? お前、こんなことをしたくなかったんだろう? 誰を恐れている。誰が唆(そそのか)した!?」
「………」
「リュカ、俺達は……親友だろ!?」
「………」
サクの思いに感化されたユウナもまた、声を上げた。
「三人で山賊を討ち取ったあの日、リュカも思ったはずよ。あたし達は無敵だって」
「………」
「リュカ。ねぇ、リュカの意志じゃないのなら……」
だがその続きは、どうしてもユウナには紡げなかった。
父の無念な骸が、視界に入るために。
「ないのなら……っ。ううっ……」
ただ泣くしか出来なかった。
「サク、ユウナ……。僕は……」
リュカが惑うような声を出した時だった。
「く……くく、くくくく……」
馬鹿にしたような笑い声が響いたのは。
それはリュカからではなく、窓際からだ。
「青二才の三文劇に、まさか心乱されているわけではなかろうな、リュカ」
窓際に……人が座っていたのだ。
それは恐ろしいほど整った美貌を持つ、金髪の男だった。
背中に見える凶々しい赤い満月が、その男の存在感を引き立てる。
それは真性の魔性――。