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吼える月
第21章 信愛
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「……ふさふさイタチが、亀の甲羅を背負っているような……」
「姫様、そんな生物はいません」
サクがユウナの肌に念入りに刻みつけた"残滓"により、中途半端にまた一時的にサクの力が伝染したユウナの目には、イタチにも亀にもなる"イタ公"が、今度はふたつの姿が合体した珍妙な姿に映っているらしい。
――イタ公ちゃんに見られて、続きはいやああああ。
突然の闖入(ちんにゅう)者により、愛の表明代わりの睦み合いの中断を余儀なくされたサクは、憤然とした顔で、ユウナお気に入りのふさふさなイタチをユウナの目の届かぬ彼女の頭に乗せると、そのままユウナを後ろから抱きしめるようにして、自分の膝に座らせた。
「ねぇ、サク……、なんでこんな格好……」
「理由一、姫様に甘えているから。理由二、できるだけ至近距離から、おかしな場所にいたイタ公へ詰問したいからです」
「そ、そう……」
明確すぎる返答に、なんと返して良いのかわからぬユウナは、サクに背を向けながらも、その背におぶさるように感じるサクの重みと熱が、"甘え"であると言われたことが嬉しかった。
消化不良にて強制終了した体の疼きを上書きするような、そんな喜悦に胸を弾ませていることを、ぶすりとした表情のサクは知らず。
そしてユウナは、理由の二番目を聞き遂げたイタチがため息をついてサクに振り向き、バツの悪そうな顔をして、正座したことを知らない。
イタチの目線の高さはサクと同じだったが、イタチは項垂れ気味の為に、若干サクに見下ろされ気味で。
二本足で歩くだけではなく、正座も反省も出来るイタチは最早普通ではなく。人間には近いが、限りなくイタチに近いこんな人間がいるはずもなく。
「――で、なにしてた」
自分が触りたかった場所を、先に堪能していた不届きな理由を、サクは詰問した。