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吼える月
第21章 信愛
儀式上、玄武を想起させるための召喚呪符を場に描くことは省略する。
儀式というのは、あくまで想念により成り立ち、意識下で人智外との連携を強めるためにするもの。
物理的な道具は、その想念をより具体的に強めるためだけに必要になるもので、儀式施行者の想念が、物理的に再現出来るほどに強ければ、道具など必要なく。
サクに限っては、玄武の力を現実におけるイタチや亀の姿に具象化できるほど、その想念は最強の武神将と呼ばれたハンよりも強い。
そのことをサク自身、気づいてはいないのだが――。
儀式に絶対的に必要なのは、生涯にわたる信愛を互いに交わし合える相手と、より強く感じられる玄武の存在。
「では、始めます――」
緊張した面持ちで立つユウナの前。目を細めたサクの意識が、現実世界と想念世界との狭間に飛んだ。
沈む。
沈む。
表層の意識から、下層の潜在意識に向けて。
そして行き着いた先は、玄武の力に彩られた水色の世界だった。
四方八方キラキラ反射するその色は、船から見た海のようで。
その素晴らしさにサクが陶酔した時、向こうから誰かがやってきた。
それは、黒く光る見事な鎧を身につけ、蛇が絡まる大刀を手にした長身の男。
遠くからでもその威圧感は凄まじく、その戦闘力は、サクの見立て可能範囲を、脅威的に超越していた。
まさに戦神――。
『小僧、よくここまで来れたな』
「――その声!!!!???」
微笑むその顔は超絶美形。
腰まである艶やかな黒髪を靡かせて、神気を纏った…男とも女とも判別しがたいその美貌の人物は、多分…いや間違いなく……。