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吼える月
第21章 信愛
「イタ公!?」
サクの体の中に流れる血が、あの本能のままに動くイタチと同一だと告げている。
『ああ。なんだ我の人型がそこまでおかしいか? 折角だから小僧に珍しい姿を見せてやろうと思ったのだが、彼の者…魔との融合が人型を損ねたか。どれどれ、少々本気になって、小僧が腰を抜かすほどもっと美しい姿態に……』
「いらんいらん、そのままで十分だ!! つーか、絶対姫様の前で、その姿はやめろよ!?」
サクは焦った声を出すと、美貌の男は解せないというように首を傾げた。その僅かな仕草だけでも、光が零れ落ちるかのように目映さを伴う。
闇に澱む漆黒色に覆われているくせに、その黒が艶めいて光に包まれている――。
人智を超えた美しさというのは、こういうものを言うのだろう。
玄武が抱く"白いふさふさ"の願いを自分は叶えてやったのだと、イタチ姿にしたことに満足していた自分が、実は"劣化"に喜んでいただけだと知り、今さらながら浅慮な己を嘆く。
だが玄武自体もあの姿を喜んでいたのだからと自分を励ますが、玄武が作り出した実像の一面に気圧されたといって、玄武の接し方を変える気はサクには毛頭無い。
どんな姿であろうとも、玄武はネズミと惰眠を貪るイタ公には変わらない。
『なぜに姫の前に現れてはならぬ? 我は、我に敬虔な祈りと感謝を捧げるあの姫を好いておる。我と会話出来るのは小僧だけにしていたが、小僧と姫が儀式をするのなら、この先、我もあの姫と色々会話をしたい。ならば人間世界に馴染むこの姿でと……』
「いらねって!! 馴染んでねぇから。無駄に煽るな、俺をやきもきさせるな!! 姫様には、俺が力を分けてやるから。会話だって俺を介せばいいだろうが。それとも…あれだ。"すりすり"以上の濃密な交合をすれば、姫様とイタチ姿のお前との会話は可能だろう!?」
『えー』
「お前、その姿でその悪態はねぇだろよ!? 無駄に自分を貶(おとし)めるな。きりっとしてろよ、神獣らしくきりっと!! ああ、そんなことより、儀式。ほら儀式。ここでやることがあるんだろう!?」
『姫と会話出来ぬのなら、やめようかな~』
麗しい姿のくせに、中々に俗めいて子供っぽい。
これならばまだイタチ姿の方が威厳がありそうだ。