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吼える月
第21章 信愛
そんなサクの葛藤を尻目に、イタチ姿の玄武は寝台の下に潜ったまま、顔を見せない。
儀式を見届けたイタチは、サクの意識の中で人型になってみせたのが祟ったのか、かなり力を消耗してしまっていたらしく、儀式中、ずっときゅるきゅると腹の虫が鳴っていたのをサクはあえて無視していたのだが、儀式後、寝台の下から出て来た数匹のネズミにおおはしゃぎ。
『ネズミ!! 丸々としたネズミが三匹も!! 他にももっとわんさかと、ネズミがこの部屋にはいるのかも知れぬ。きっと儀式を祝福して、女神ジョウガが我達にくれたのだ。小僧も姫と食うか。少しやるぞ、我からの祝いだ』
――……。お前、人型で現れたりと張り切って力使って腹減ったんだろう? 俺達のこと気にしないで全部食べていいから、神聖な儀式をした場所ではなく、見えないところでたらふく食ってろ。姫様が卒倒するじゃねぇか!!
『なんと!! ネズミをすべて我にくれるなど……小僧も我のように慈愛深さに目覚めたのか!! 我は感動した!! ならば我から特別、主を得て武神将となった小僧に"祝い"をやろう。小僧が好きなものだ、堪能せよ』
と、食事場所を寝台の下に移したイタチはまだ出て来ない。まだ食事しているのか、空腹が満たされ眠っているのか。とにかく祝いの品はまだ現れない。
イタチからの祝いなど、ネズミの尻尾ら残骸に違いないと、まるで期待していないサクは、もう既にそのことを忘れてしまっていた。
彼の注視は、儀式後気を昂ぶらせて、耳と胸が熱くてたまらないらしいユウナのことばかり。落ち着かせるため、彼女を寝台に座らせ……今に至る。
熱さを感じているのは、自分がつけた耳飾りがある方のようだ。