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吼える月
第21章 信愛
「隣だろうが足元だろうが、俺は姫様の傍に居るんですから、そこまで驚かなくてもいいでしょう? 今まで通りです」
立場をわきまえることは、幼き頃よりサクは心得ていた。
ここ最近が例外すぎ、さらには護衛役は解除されたままだからという体のいい言い訳で、堂々と横に座って存在を主張していたりしたけれど、儀式をした以上は、どこかで絶対なる忠誠を誓った臣下としてのけじめをつけたいという気があった。
ハンから譲りうけた武神将という立場を、公私混同したくない……というところから始まった、些細なこだわり。
だがそれも、控え場所だけしか変えようとせず、一介の臣下が主に持ちえぬ"男の情"にてユウナに触れることを、今後も正そうとしないサク自身、あまりに微細すぎる建前だと笑ってしまうものだが。
それに今、横に座るとユウナを押し倒しそうで。
自制のためには、立場をわきまえるのが一番効果的に思えたのだった。
「じゃあ……もう駄目なの……?」
投げかけられたのは、絶望的に沈んだような声。
「隣に座らないくらいで大げさな。今までだって俺は、この位置にいたんですし。それにこれは基本で、時と場合によって動きますから」
「じゃ今」
ばんばんばん。
ユウナが隣を叩く。
誘われていると勘違いしそうになり、押えていた欲情が少し零れた。ユウナに触れたくて伸びそうになる手をぎゅっと力を入れて押し止め、サクは心で必死に自分に喝を入れる。
しっかりしろ。俺はこれからのことを姫様と打ち合わせして、行動しなければならないんだ――。