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吼える月
第21章 信愛
「今、どこに隣に座る必要性があるんですか」
平静さを装って余裕めいた笑みをなんとか作って言うと、ユウナは詰るような眼差しを向けてくる。
「それとも命令してみます? 武神将に、初命令。いいですよ、どうぞ?」
「……あたしがそんなことで命令したくないの、知ってて言っているんでしょう。サク、いやらしい」
ほんのりと目許をが赤く染めたユウナが、唇をきゅっと尖らせながら、拗ねたような視線を向けた。
その姿は、"おねだり"されているような艶を含み、思わず口を開いて吸い込まれそうになってしまったサクは、慌てて咳払いをして失いかけた自制心を取り戻す。
「儀式したばかりの神聖な神将を、いやらしいって……」
「サク、いやらしいもの。いやらしい、いやらしい」
連呼されると、我慢している本当の"いやらしさ"が呼応してしまう。
いっそ本気に突き抜けていやらしくなってしまおうか。いやいや、いやらしくしたらユウナに嫌われてしまう……。
「サクはいやらしい、いやらしい、いやらしい」
……あまりに執拗に言われると、今度は秘匿していた欲を見透かされて責めたてられているような気分になり、卑屈になってくる。
「姫様……。俺も男です。否定はしませんけど、なんでそこまで……」
「いやらしい、いやらしい、いやらしい」
するとサクがいじけた。
「わかりましたよ。……できる限り、禁欲します」
それはあくまで、"できる限り"。今よりも、もう少しだけの自制。
完全禁欲を約束したわけではなかったのだが、
「ええええ!?」
強いたユウナが飛び上がって驚く。しかも哀しそうに。
「な、なんですか、姫様」
「だったら……我慢、しなきゃ……」
そんな切羽詰まったような声音は、ますますサクを訝らせた。
「はい?」
「我慢我慢我慢……。そうよね、あたしの方がいやらしい…」
「な、なんだ……?」