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吼える月
第21章 信愛
顔を掠めるサクの黒髪。
自分の顔からそれる精悍な顔は、身体同様……自分に触れる寸前でぴたりと止る。……まるで蛇の生殺しのように。
サクがこんなに近くにいる――。
ああ、抱きしめたい。
ああ、抱きしめられたい。
ユウナは乱れた呼吸をした。
「ねぇ、姫様……」
耳もとにわざとふぅっと熱い息がかけられ、ユウナは身じろぎをした。
「俺にここ……、触れられてぇんですか?」
サクの言葉が段々と自分の欲望に近づいているのが、自分の淫らな心を責められている気分になり、ユウナは首を振って否定する。
「違……」
泣き出しそうに当惑している顔を見れば、サクの言葉が図星なのだとすぐわかるのだが、それでもそれをわからせまいと必死に隠そうとするその愚かさがまた、サクには愛おしく。
もっと追いつめて、陥落させてみたくなる。
それは――サクの切望でもあった。
「姫様……」
サクの声が哀切極まったような掠れ声になってくる。
「俺、お願いされてたんですか?」
まるで、そう言って自分を求めて貰いたいという懇願のように。
ユウナからの言葉が欲しいというように。
「違うったら……」
「俺、姫様を触りたい」
そしてサクの顔が真っ正面に向き直る。
情欲に濡れた漆黒の瞳は、妖しく揺れ。
僅かに薄く開いた薄い唇からは、熱情の息が喘ぎにも聞こえて。
男の艶に満ちたサクの真剣な顔に、ユウナの息は上擦った。