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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~

「この世のどんな願いでも叶える箱……女神ジョウガの封じた箱を開ける、玄武、白虎、青龍、朱雀……4つの鍵のうちのひとつ」

「恐れながら陛下」


 遮るように声をあげたリュカに、冷ややかな声が返る。


「……リュカ、口出しするのなら、どちらかを殺そう。サクと呼ばれる者か、ユウナと呼ばれる者か。お前に選ばせてやる。もしも答えぬようなら、ふたり共だ」

「――っ!!」


「鍵ってなに!? あたし知らないわ」

「代々の祠官は、それぞれ外からわからぬところに鍵を隠してきた。それをリュカが13年かけてようやく、祠官から聞き出した。

玄武の鍵は……お前の純潔だ」

「純潔……?」


「鍵と言っても鍵の形をしているとは限らぬ。黒陵においては、たまたまそれが姫の処女であったということなだけ。無論、姫を襲う暴漢対策に護衛を置き、なおかつ祠官は自らの命を媒介にして隠匿してきた。

祠官の命があれば鍵はどこにでも移動出来たものが、祠官が死んだことにより……鍵は姫の胎内に残ったまま」


 金糸のような長い黄金色の髪が、妖しくさざめいた。


「予定ではリュカが鍵を取り出すはずだったが、こうももたつく仕置きに、余が代わってお前の純潔を散らそう。

余の剛直に貫かれて女になること、光栄に思うが良い」


 嗜虐的な光湛えた黄金色の瞳が、愉快そうに細められる。


「しばらく女を抱くことすら叶わなかった。余の濃厚な精を浴び、悦楽の果てにて鍵を与えよ」


 じりと近寄る男に、ユウナは本能的な声をあげた。

 それは雌としての危機感。この場で公開的に身を穢される恐怖に全身がぶるぶる震える。


「ゲイ陛下!」

「……めろよ、姫様に手出しすんじゃねぇ……よ」


 全身から血の気が引き、あまりの恐怖に心臓の音だけがけたたましすぎて、もう誰の声も届かない。なにも考えられない。


 だけどひとつ、今の状況でわかることがあるとすれば。

 不条理な要求を飲まねば――、


「姫様に触れることは……ぐはっ!!」

「うるさい。……これで四肢の骨は砕いた。あと残るは胴……臓物のみ」


 サクが死ぬことだけ。

 自分のせいで、また自分の前で、大好きな者が死んでしまうことだけ。

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