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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
 


 それだけは嫌だ。それだけは。


――姫様、うるせぇですよ!


 サクだけは。絶対サクだけは生きて逃がしたい。

 そのためにたとえこの身がどうなろうとも。


 ユウナは怯えたその目に父の骸を映した後、諦観の色を浮かべ……そして覚悟を決めた。



「約束して頂戴。あたしが体を捧げれば、サクは助けてくれるのね」

「ああ」

「本当ね!? 本当にサクの命を保障するのね!?」

「この赤き満月に誓おう。もっとも……今の状況でどれだけ長らえるか、わからないがな」


 サクなら、絶対回復する。

 もしかするとハンが駆けつけてくるかもしれない。


 玄武の祠官たる父が死んだことで、武神将たるハンの力に幾らか影響はあるとしても、それでもハンは……息子を絶対死なせない。


 自分のように……ただ見ているだけで終わらせる、そんな男じゃない。


 絶望の現状。

 だけど微かに見えた、"未来"への期待。


「いいわ。早く終わらせて」


 そう言い切ったユウナから、袂に入れていた小刀が勝手に動いて後ろの壁に突き刺さる。


 これでユウナには武器はなくなり、完全丸腰になってしまった。

 それでもユウナは気丈に、毅然と金色の……ゲイを見据えた。


 体は屈しても、心は屈しないという……せめてもの抵抗の表れだった。


「馬鹿か、姫様っ!! 俺のこと……なんてどうでもいいんだよ、聞くな、聞くんじゃ……ぐっ、ねぇぞ!? リュカ、姫様を……っ、護れ――っ!!」


 声を出すのもやっとの激痛の中、サクは大声を張り上げ、動かぬ四肢を懸命に動かそうとしている。


「俺の代わりに、リュカ――っ!!」

「いいの、もういいのよ、サクっ!!」


 ユウナの緊縛は解けた。


 目の前には金髪の男が居る。

 その後ろには、傅いたまま動かないリュカが見える。
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