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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
「姫様を穢すくらいなら、俺は――っ!!」
「……舌など噛み切らせぬわ。お前は黙って、そこから見ていろ。お前が護衛している姫が蹂躙される様を。お前の無力さを嘆け」
サクの体は大の字に拡げられるようにして垂直に立たせられ、宙に浮いた。
サクの口は動くが、その声は響かない。
ただサクの耳に、周囲の音が届くのみ――。
動くことが出来ず、声すら上げることも出来ないサクは、それでも叫び続けていた。……誰の耳にも届きはしない、命の叫びを。
これから始まろうとしている狂宴は、それだけには留まらなかった。
「そうだ、リュカ。許婚の終焉を飾るがよい」
「……え?」
蒼白な顔色のリュカの顔が上げられた。
「許婚として、愛しき姫の口で……果てるがよい」
「は?」
男は笑う。
「お前の種を、姫の口に放つことを許す」
その意味を悟ったリュカの目が見開かれる。
サクの目もまた見開かれた。
「それは……それだけはっ」
「なにを怯える。拒否をするのなら、この姫を引き裂いてもよいのだぞ? それとも、あの死に損ないがいいか?」
「――っ!?」
「リュカ、従って。サクは殺させはしない。お父様のようにはさせはしない。サクだけは、あたしが救ってみせる!」
「なかなかに潔い。これはどんな啼き声が聞こえるのか愉しみだわ」
金に彩られた男は笑いながら言った。
「では……宴を始めようか」
その言葉が、狂宴の合図だった――。