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吼える月
第22章 不穏
「……なんだか、そっけねぇ…。姫様は、ひとりで心細いとか、俺と離れて寂しいとか思わねぇんですか?」
人の焦りを知らずして、熱をぶり返させるように、サクがまた甘えたがりになって、およそ子供とは思えぬほど、やるせないため息を頭上に落としてくる。
「俺は、離れても姫様を遠くから守れるからと儀式をしても尚、姫様の傍から離れたくねぇっていうのに…。……この温度差が哀しいです」
首筋に埋められたサクの顔。なにやら面白くなさそうに、そのままぐりぐりと頭を動かされて、サクの髪が肌に掠める。
「サク、くすぐったい…」
まるで人なつっこい獣が甘えているようだ。
"獣"で思い出す。
「あれ、首にイタ公ちゃんしてたのに……」
「こいつですか? ちょっと起こさないといけませんから」
目の前に伸びたサクの手がいつのまにやら掴んでいるのは、でろんと下に垂れた白いふさふさ。
サクがゆっくり上下に手を揺らすと、下ムキになったイタチの顔も動くが、自らの意志で動き出す素振りはない。それどころか両手を挙げたような"開き"状態で、幸せそうな顔で目を瞑ったまま、ふにゃふにゃ口を動かしている。
「この動きをゆりかごとでも思っているんでしょう。こいつはいいんです、それより姫様……。注意事項、絶対守って下さいよ? ……こういうこと、絶対他の"男"にさせないで下さいよ。させたら、遠くから俺、お仕置きしますからね?」
ちゅっちゅっと首筋に熱い唇を落としてくるサクに、くらくらしてそのまま前のめりに崩れてしまいそうになるのを我慢しながら、やや上擦った声で平静さを装ってユウナは答える。
「わ、わかったから! あたしだって、さ、寂しいけれど…、だけど今までだって、そうだ、サクが武官になったばかりで、ハンと一緒に遠征行って長く会わなかった時があったでしょう? あの時だってあたし、サクがいなくても、リュ……」
「………」
言葉をきったユウナはバツの悪い顔をした。サクが聞き返さないのは、過去何度もこの話をサクにしたからだ。
――サクがいなくなって寂しいだろうって、ずっとリュカが傍に居てくれたの。リュカと一緒に、サクの帰りを待ってたのよ?