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吼える月
第22章 不穏
 



「姫様、なんか寒いですね……」



 サクが気怠げな声を出した。


「え、そう? あたしは暑……」


「寒いです。――俺の心」

「え?」


 サクはユウナの手を取ると、自分の胸にあてた。



「……姫様。早く俺のここに、入ってきて下さい」

「……っ」

「俺のここは、姫様をずっと待ってます。姫様だけが俺の心を熱く……」


 その時、ユウナがびくんと身体を震わせた。

 そしてきょろきょろとあたりを見渡す。


「――!!? サク、聞こえた? 咳払いみたいな音。小さい音だから、聞き逃しちゃうところだったけれど……」

「……気にしねぇで下さい。そんな幻聴より、俺の声を聴いて。……姫様、俺を見て。俺を感じて」


 上擦ったサクの声が、熱と共に声高になってくる。


「姫様の熱くて柔らかいその身体で、凍えきった俺を温め……」

 

『シャーッ!!』



 それは……サクにとって聞き慣れた、奇怪な音。



「今度は、な、なに!?」

「は!? なんで"イタ公"が出張るんだ!?」




『――小僧、まだ"致す"つもりかっ!!』



 下向きイタチが、腹筋するようにぐぐっと……下にある上半身をサクが掴む下半身の方へと持ち上げ、身体を捻りながら、



『シャーッ!!!』



 赤い目をして牙を剥いてサクに怒った――と同時に、力尽きたように下に垂れ、ゼィゼィハァハァと息をした。


 両手をだらりと垂らして、ぶらりぶらりとイタチは揺れる。


「お前、イタチなりたてなんだから無理するな。それに一応、姫様のお気に入りなんだから、驚かせるなよ。奇怪な獣だぞ、お前」



『我は慈悲深い神獣ぞ……。小僧が、小僧が、延々と果てなく無分別に姫と致して、我の同胞青龍を助けようとしてくれぬから……』


 逆さまのイタチの目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。


「泣くなって、俺だって一応色々考えてるんだ。ほら、さっきの咳払い聞こえただろう? あと少しだから。"奴"はこうしたイチャコラが嫌いのくせに、無駄に粘るから。だから俺、小っ恥ずかしいことを大声で言って煽ってみたんだ。見捨ててなんかねぇから。だから、な。泣くなって……」



「きゃああああっ!!」


 一呼吸おいて、ユウナは身体を捩ってサクに抱きつく。



「イタ公ちゃんが、喋った!?」

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