この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第22章 不穏
「姫様、なんか寒いですね……」
サクが気怠げな声を出した。
「え、そう? あたしは暑……」
「寒いです。――俺の心」
「え?」
サクはユウナの手を取ると、自分の胸にあてた。
「……姫様。早く俺のここに、入ってきて下さい」
「……っ」
「俺のここは、姫様をずっと待ってます。姫様だけが俺の心を熱く……」
その時、ユウナがびくんと身体を震わせた。
そしてきょろきょろとあたりを見渡す。
「――!!? サク、聞こえた? 咳払いみたいな音。小さい音だから、聞き逃しちゃうところだったけれど……」
「……気にしねぇで下さい。そんな幻聴より、俺の声を聴いて。……姫様、俺を見て。俺を感じて」
上擦ったサクの声が、熱と共に声高になってくる。
「姫様の熱くて柔らかいその身体で、凍えきった俺を温め……」
『シャーッ!!』
それは……サクにとって聞き慣れた、奇怪な音。
「今度は、な、なに!?」
「は!? なんで"イタ公"が出張るんだ!?」
『――小僧、まだ"致す"つもりかっ!!』
下向きイタチが、腹筋するようにぐぐっと……下にある上半身をサクが掴む下半身の方へと持ち上げ、身体を捻りながら、
『シャーッ!!!』
赤い目をして牙を剥いてサクに怒った――と同時に、力尽きたように下に垂れ、ゼィゼィハァハァと息をした。
両手をだらりと垂らして、ぶらりぶらりとイタチは揺れる。
「お前、イタチなりたてなんだから無理するな。それに一応、姫様のお気に入りなんだから、驚かせるなよ。奇怪な獣だぞ、お前」
『我は慈悲深い神獣ぞ……。小僧が、小僧が、延々と果てなく無分別に姫と致して、我の同胞青龍を助けようとしてくれぬから……』
逆さまのイタチの目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「泣くなって、俺だって一応色々考えてるんだ。ほら、さっきの咳払い聞こえただろう? あと少しだから。"奴"はこうしたイチャコラが嫌いのくせに、無駄に粘るから。だから俺、小っ恥ずかしいことを大声で言って煽ってみたんだ。見捨ててなんかねぇから。だから、な。泣くなって……」
「きゃああああっ!!」
一呼吸おいて、ユウナは身体を捩ってサクに抱きつく。
「イタ公ちゃんが、喋った!?」