この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第22章 不穏
「え、姫様……、イタ公の言葉がわかるんですか!?」
「わ、わからないけど、イタ公ちゃんと思われる声が……」
「イタ公、どういうことだ?」
イタチはぶらぶらと揺れながら、気怠そうに答えた。
『儀式によって、玄武の力で結びついた強固な絆だ。平生我の姿が見えるのは当然。そしてあれだけ小僧がしつこく念入りに、これでもかというほど己の残滓を姫に擦りつけたのだ。言葉ぐらい……』
「残滓?」
「うわわわっ、黙れ、黙れよイタ公っ!! なんでそんな汚らしく言うんだよ、俺、俺……っ、鍛錬してただろ!? 切ない男事情、お前もオスなら汲み取れよ!? つーか、お前"最中"も聞いていたのかよ!? 今までぐっすり寝ていたんじゃねぇのかよ!!」
『胸焼け……してしまったのだ。身体中痒くなるような言葉を、姫に延々とお前が言うから。お前が鍛錬をし始めてようやく静かになったら、今度はここの"空気孔"から聞こえる音が、イタチの耳に響いてたまらぬ。それでも我、またとろりとろりとしたところ、引きずり出したのはお前だろう』
「痒いって……っ、あれは俺の本気の想い……イタチには痒くしかなんねぇのか!? 姫様、姫様は違いますよね、痒みでは終わりませんよね!?」
「え、え?」
「それより姫様の首に巻いた時、お前起きてたのか!? 姫様の首が居心地よくて、イタチ寝入りか、お前!!」
「えっと、サ、サク……? ま、まず落ち着いて……?」
「姫様、なんで他人事なんですか!! きょとんとしないで下さいよ!! イタチが胸焼けするくらいの言葉を、俺が向けたのは姫様になんですよ!? もっともっと、あれだけ気持ちいいって意識飛ばしたんだから、目覚めたらもっと俺を意識して、ぽっとくらいなってくれても……」
サク自身、誰になにを怒っているのかわからない。
だが、知らずに"聞かれていた"動揺は大きいらしい。