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吼える月
第22章 不穏
『小僧、我慢の限界で壊れたか』
「サク壊れちゃったの? な、泣いてるんじゃ…」
「壊れてません!! 泣いてません!! しくしくめそめそ女々しいのは、そこのイタチです。俺、俺、せっかく念願だった…姫様との愛をゆっくり育んでいるはずなのに、見られたり聞かれたり切羽詰まったり!! 俺、普通にもっとゆっくり……ああ、なんだか無性にやりきれねぇ――っ!!」
その時である。
『こ、これは……』
イタチが、不穏な声をだしたのは。
サクはイタチを握る手を持ち上げ、その垂れた頭を自分の目の高さに持ち上げて神妙に尋ねた。
「イタ公、どうした!?」
『来る……』
イタチの愛らしい目が、野生の険しさを強めていた。
神獣が感じる"なにか"。
サクはそれまでの騒いでいた己をすっと律し、目を鋭くさせた。
「イタ公、なにか来るのか? "奴"か!? だけど早すぎやしないか? 全力疾走でここにきているのか!? それともあいつ以外の……なにかが!?」
『あ……っ、やはり来た…』
その時、バタンと派手な音をたてて石扉が開いた。
『我の鼻に……血がっ!!!』
そして――。
「来たって……"鼻血"かよ!?」
白いイタチから勢いよく放たれた、真紅の放物線。
それは――。
「黙って聞いていれば!!
いつまで卑猥なことをしてるつもりだ、お前!!
こっちは急いで――」
石扉の向こう側から、憤った大股で入ってきた、青く輝く男の顔を……赤く染めてしまった。