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吼える月
第22章 不穏
◇◇◇
獣が放った、生臭く真っ赤な鼻血に染められて――。
ある者は殺気めいて怒り、ある者はその挑発を好戦的に受け、ある者は部屋の隅にて深く嘆き、ある者はその者を励まし、ある者は…床にて大の字になって動かない、亀としか思えないものを慎重に指でつつき……。
そんな、誰もが迎合する気もなければこの場を治める気などまったくなく、それぞれが好き勝手に繰り広げていた……一見惨劇風のこの無法地帯を、一喝で治めたのは後から現れたギルだった。
「待てど暮らせど戻ってこねぇと思ってたら、お前までなに遊んでいるんだ、シバ――っ!!」
部屋に入り早々、そのあまりに迫力ありすぎる凄めいた威嚇顔に、女子供は怯え、互いを庇い合うように素早くひとつに固まると、がたがたと震える。
そしてこの場の責任を名指しで問われたのは……、聞きたくもないのにサクとユウナとの睦言を聞かされた挙げ句に、獣の血を吹きかけられたシバであり、ギルの一喝によって、途端にシバは全身からサクへの戦意を消し、小さく舌打ちの音を響かせた。
これが、この騒動の終焉の合図となった。
荒くれ者風のギルを抑えることが出来るのはシバかも知れないが、冷静さを失ったシバを抑えられるのはギルであり、どちらが上とも言えぬこの組み合わせは、中々にいいのかも知れないと、サクは密やかに思った。
「さあ、答えを聞かせて貰おうか」
ギルと、大きな布で血を拭ったシバが、サクの決断を迫った。