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吼える月
第22章 不穏
「言っておくが……」
シバが不機嫌そうな顔で、サクの答えを聞くより先に口を開く。
「ジウとも闘わず、ユウナも残さないという第三の選択肢は認めない。まあここから逃げようとしたら、オレ達は真っ先に船を潰してお前達を大海に放り出すだけだ。オレ達には、材木から船を復元できる技術もある」
そして続けたのはギルだ。
「そしてお前達は青龍殿がどこか陸がどこか、方角がなにも見えぬ広い海の中、サメら海の怪物を撃退して、これから満潮となる荒波を乗り切って、再びその足で地を踏むことがいつできるのか、それを考えてみろ」
勿体ぶって考える時間を有することなく、即座にサクは応える。
「無謀だな、それは。蒼陵では、青龍殿にしろ陸にしろ、船がなければ移動が出来ねぇことは、悟ったつもりだ。さすがの俺も、姫様抱えて終着地がどこかわからぬ海を、遊泳できるとは思えねぇ」
「がはははは。玄武の力とやら使わねぇのか?」
どうしても玄武の力が見たいらしいギルの言葉を、サクは口元で笑って却下する。
「この大海で玄武の力を使えば、底を歩けるように干上がるとでも? 或いは青龍殿や陸まで小範囲で結界を張り続けながら、方角もわからねぇどんな長旅になるかわからねぇ長距離を移動できるとでも?
幾ら俺が馬鹿でも、自然の脅威はわかる。しかも、武神将になったばかりの俺には、そこまでご大層な力を使える自信も維持出来る自信も、これから先もまったくねぇ。第一俺は力を使うのが不得意だ」
「それで最強の武神将の息子か!?」
ギルが挑発するように嘲笑うが、それにサクは乗らなかった。
「……ではギル。お前なら、この蒼陵の海をなんとか出来ると思うか? シバ、お前も。神獣の力があれば、この海はなんとかなると?」
ギルとシバは答えなかった。
「わかっているんだろう? 神獣の力もまた、大自然の力を"借りて"いる存在だということに。武神将如きにそんなことが出来るのなら、今頃蒼陵は海で覆われずに、黒陵のように大陸続きになっていただろう」
「だったら――」
シバが目を鋭く光らせる。
「お前がとるべき術は、当初オレが宣言した通り、ふたつにひとつ。そのどちらを選ぶのか、答えを聞かせて貰おうか」