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吼える月
第22章 不穏
見たからといって自分がどうにか出来るわけではないかもしれない。だが自分は、イタチとも約束した。ぽろぽろと涙を零す、自称「慈愛深い」本能で生きるイタチとの約束を反故にするつもりもなく。
できる限りやりたかった。やって出来なかったのと、やらずに出来なかったのとではまるで意味合いが違う。
青龍が実際どうなっているのか、なぜ玄武が感じ取れぬ状態になっているのか、知るのは現行青龍の武神将しかいないと思えばこそ、やはりサクの心はひとつ。
ジウ殿に会いたいと、その心はユウナに告げた時と変らなかった。
だが――。
ユウナ自身、どう思っているのか、今の気持ちを聞きたかった。
サクがユウナを置いてまで、ジウに会いたいと思うのは、その根本にリュカの存在があり、リュカが別の誰かと婚姻して近く自分達の前に現れるだろうことを知ったからだ。
リュカの影がなければ、ユウナを置いて行こうとは考えまい。
どうしても……リュカに拘る焦慮感のようなものがあった。
あまりよくない予感を感じればこそ、なんとしても事前に動いて、ユウナに振りかかる災厄の火の粉をとっておきたかった。
リュカがユウナと自分の前に現れるのは、意味がある。
リュカがどんな布石を過去に敷いたのか、それを早く知って対策をたてる必要があった。
だが、そう思うのに……、いざユウナを置いて行こうとすれば逡巡が芽生え、ユウナを残してジウの元に行きたいとすっと言い出せない。
なにか不安がある。
儀式をして払拭されるならまだしも、なにか強まってしまったような、得体の知れない"なにか"の到来を予期させるのだ。