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吼える月
第22章 不穏
サクが思っていたよりもユウナは逞しかった。
玄武殿から逃げた時のような儚さはなく、ユウナもまた強くなろうとしていたことを、サクは感じ取った。
それを嬉しく思う反面、心寂しくは思うけれど――、
「前へ、進みたい」
それが愛するユウナの望みでもあるというのなら。
「御意」
サクはユウナの前で片膝をついて、頭を垂らした。
「必ず、帰ってきます。必ず、どこからでも守ります。……イタ公を置いて行きますから、なにか困ったことがあればイタ公に。俺と奴は心でも会話できますので」
「まあ、いいわね!! 私もサクと会話したいのに」
「……今度、練習しましょうか。俺も、姫様といつでも会話してぇです。近くても遠くても。いつでも一緒に……」
そう笑ったサクの凜々しい顔つきに、ユウナの胸が甘く疼く。
そんな僅かな動揺に気づいたサクが、どうしたのかと首を傾げて無言で尋ねたが、ユウナは笑って誤魔化しサクを立たせた。
サクは、遠くから守れるように儀式をしたけれど、イタチをユウナの傍に置いていこう、そう決めていた。
本来ならば、同じ神獣の気配を感じ取れるイタチが自分の傍にいてくれた方が心強いのだが、それでもユウナを守る術に念には念を入れたい。
イタチは、サクを護り続けているために攻撃はできないが、護りは出来ることは既に聞いている。そしてサクとイタチは心で会話ができ、そしてユウナもまたイタチと会話が出来ている。
イタチを介したこの連携が、ユウナの身体に自分の痕跡が残るうちになされているのであれば、すぐさま動いてやり遂げたい。
「――俺は、ジウ殿のところに行く」
そう宣言したサクは、瞬時に目に殺気を宿らせると、瞬間移動のようにギルの胸倉を掴んでその目に凄みを利かせた。
「サク!?」
「お前!?」
ユウナとシバの驚きの声が同時に上がった。