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吼える月
第22章 不穏
「姫様に手を出すのなら、俺は……、世の理を変えても、全力で敵に回る。選択の余地すら与えねぇ。いいか、それが俺の……やり方だ」
頑ななまでの覚悟を決めた、修羅場を潜ってきた男の顔。
信念とも違う、それはまるで――。
それにシバが、飲み込まれた。
「サク」
「へいへい、わかってますよ、姫様。仲良くですね、仲良く。まったくこの姫様は、なんでこうなっているのをわかっているのかどうか」
ユウナの声におどけたふりをして、サクは彼女の細い腰を引き寄せ、愛おしそうに頭上に唇を落とし、その目をギルとシバに向ける。
"俺の女に、手を出すな"
ユウナの言葉で殺意は消えても、ユウナを介したサクの恋情で直ぐに殺意は芽生える。
それはまるで、狂気――。
「……3日だ。3日以内に、ここに戻れ。それまではユウナの貞操も命も、オレが保証しよう。それがオレの最大の譲歩だ」
「シバっ!? 話が……っ」
ギルが慌て、サクはギルがユウナをものにしようとシバに話を持ちかけていた事実を悟って、再びギルを睨み付ける。
「3日だ。お前がジウと会えようが会えまいが、3日の日没前に戻ってこなければ、あとはギルの好きにさせる」
「す、好きに!?」
ユウナが狼狽し、サクの顔が険しくなる。
「それを信じろと?」
「信じなければ、疑心暗鬼に力を無駄に使い続けていろ。信じる信じないはお前の勝手だ。オレはこれ以上なにも言わん」
「……。……じゃあ、信じるぞ」
「なんだ、本当に信じるのか。お前、単純馬鹿だってよく言われるだろう」
「……どっちだよ!? 喧嘩売ってるのか、てめぇ」
「まだお前が喧嘩したいというのなら、買ってやってもいいが」
「買うか買わないか決めるのは俺だろうが!!」
興奮するサクを、つらりとした顔でシバは受け流す。
「……3日、俺を信じろ。だからそれまでは、お前はユウナを守ろうとしなくてもいい。玄武の力とやらを使うのは、3日日没超えてからのことにするか、別のことに使え。……多分、早々に必要になるだろう」
シバは毅然と言い放った。
不穏な言葉の最後は、サクが感じる不安と同一のものなのか。