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吼える月
第23章 分離
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玄武の武神将と主たるユウナ姫を別離させる選択肢を与えたのは、青龍の武神将の隠し子、シバ。
そして別離する選択肢を選んだのは、玄武の武神将と姫――。
姫を守りたいという、狂気のような敵意を向ける玄武の武神将から思えば、そして到底ひとりではなにも出来ない世間知らずの姫のか弱さから思えば、このふたりが安心感などないだろうこの砦で、互いに別離の道を選んだということは、シバにとっては意外なことだった。
だが、無事でいられるという確証がなくとも、互いを信じ合えるほどにさらに強まっているふたりの信頼関係を眩しくも妬ましくも思った。
同時に、別離を強行しないといけないほどに、これから来るという黒陵の新祠官に備えたいという切実さと、青龍の武神将の狂行を確認したいというこの武神将の魂胆に、他にもなにか含みがあるように思えた。
"それ"こそ、シバ本人が真に願うことではないか――。
だからこその"共鳴"を感じたシバは、長年の友であり家族であるギルの下世話な願いを退け、会ったばかりの隣国の武神将に、限定的な自由と力を与えた。
必ず姫の居る自分達側に戻るようにと、ここに縛り付ける鎖にして。
姫の安全が保証されているのは、3日後の日没まで――。
その僅かな時間に動じることなく、玄武の武神将は、青龍の武神将と会うために必要な者として、シバに並んで子供達からの信頼も篤いテオンを選んだ。
その人選は、玄武の武神将にとっては初めから決めていたことだった。
彼は、密やかにテオンの意図を確かめたかったのだった。
……敵なのか、味方なのか。
~倭陵立国史~
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