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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
  

 リュカの目の前で。

 サクの目の前で。



 嫌だと思うのに。

 逃れたいと思うのに。


 男を知らない無垢な体に、男の慣れた手淫は巧み過ぎた。

 ユウナが初めて感じる、びりびりとした甘い痺れを引き出し、ユウナの理性を奪おうと翻弄する。




「さぁよく見ろ、リュカ。お前がなんとも思っていない女なら、見れるはずだ。見れないというのなら、今ここで……そうだな。お前の持つその小剣を、この姫の蜜壷の奥深くに差し込んでもいいんだぞ? 抽送のように何度も何度も激しく、深く!!」



 仄かに上気した顔。


 とろりとした黒曜石の瞳。

 半開きになった桜貝のような唇。


 艶めき始めた美しい女の顔は、リュカが視線を外そうとする以前に既に、彼を魅縛していた。


 リュカの眼差しは、ユウナに向けられたまま。

 戸惑いと苦渋に揺れていたはずのその目は……次第に熱を孕んで濡れて行く。

 そこには当初見せていた凍気などまるでなく、灼熱だけが渦巻いていた。


 変わりゆく男の眼差し。ユウナが苦手としていたリュカの男としての顔に、ユウナはぶるりと身震いした。



「見ないで……あたしを見ないで……っ!!」




 羞恥、屈辱――。


 こんな、はしたない姿を見せたくないのに。


 それでも心と裏腹に、体は反応し始める。

 見られていると思えば、ますます熱くなる……淫らな体。


 浅ましい女の性は、サクを傷つける残虐な男に従順で。男の手の動きひとつでどうにでもなる、そんなひ弱で脆弱な存在だということを思い知らせる。


 ……ユウナは片目から一筋涙をこぼした。



「やだ……」



 口から自然と漏れたのは、体に抵抗する心の悲鳴――。


 
「やだ? サクとやらが死んでもいいのか?」



 途端……ユウナの黒い瞳からすっと光が消え、ユウナから……抵抗するすべての力は失われた。


 理性が邪魔だ。

 理性がサクの命を脅かすのだというのなら、理性などなくしてしまおう。

 ただなされるがまま、ただの傀儡のように……この男を満足させて、この狂宴を早く終わらせよう……。


 それだけが、自分に許された道なのだと……彼女は悟ったのだった。
 
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