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吼える月
第23章 分離
「イ、イタ公ちゃん……。どう思う? ねぇ、イタ公ちゃんに聞くのもどうかと思うけれど、あたし……確かに彼から、リュカにしては"違和感"を感じていたのは事実なの。ねぇ、どう思う?」
リュカでないとしても。
これだけ似ている男を前に、緊張が崩れたユウナの身体は震える。
――僕は……お前が死ぬまで、憎み続ける。
いつ、同じ言葉が出てくるのかと、恐怖に身体が震えるのだ。
もしも本当のリュカであったのなら、自分はここまで平静でいられなかったのだろうか。リュカではないから、この程度ですんでいるのではないだろうか。
いまだ心を強く持とうとしないとリュカに震える自分の惰弱さを、心で叱咤しながら、最早通話が通じぬサクの代わりにイタチに求めた意見は――。
『姫。この者が我が主の子孫たる皇主の血を引く者であらば、我の力が影響されても不思議ではあらぬ』
シバの言葉に賛同、だった。
無論、その理由は、イタチの正体がわからぬユウナにとっては理解できるものではなかったが、イタチが否定しないというところがすべて。
リュカが皇主の三男に似ているのか。
皇主の三男がリュカに似ているのか。
とにかく瀕死のこの男は、リュカではない――。
そう思えば。
リュカが怪我をしていないと思えば。
ほっとする自分がいることに、ユウナは居たたまれない気分になった。
やはりまだ自分は、昔のリュカを引き摺っているのか。
それは、リュカより自分を選んで欲しいと懇願していたサクに対する背徳感のようなものとなり、それを抱えてしまったユウナの心はちくちくと痛んだ。
リュカと皇主の三男が酷似しているという事実に衝撃をうけたのは、シバとギルもであった。
「なぜ、放蕩と名高い皇主の三男坊が、蒼陵へ……?」
「そっくりなリュカとやら玄武の新祠官が視察にくるこの時期に、なぜ……? 意味があるのか?」
ふたりの疑問と、
『この者、無意識でも結界を有して、我の力を惑わし遮ろうとしておる。この者の力、幾許か。未知数ゆえに、我は不安だ……』
神獣の呟きが、空気の重みをさらに増長させた――。