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吼える月
第24章 残像
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玄武の武神将が傍にいない黒陵の姫の元に、突如瀕死の状態で現れたのは、かつて姫を裏切った元婚約者、現玄武の祠官と同じ顔を持つ者。
しかし彼は、予言に謳われていた「魔に穢れし光輝く者」ではなかった。
その顔を過去目にしたことがある青龍の武神将の隠し子シバ曰く、この男は、倭陵の中央に座す皇主の三男であるらしい。
なぜ家族のない玄武の新祠官と、倭陵国を鎮護する神獣の主人、女神ジョウガの血を汲むとされている皇主の直系が同じ顔をしているのか。
なぜこの時期、そのふたりが突如、馴染みのない蒼陵の訪問を決めたのか。
本当に目の前の男は、皇主の三男なのか。
彼は、各々の敵となるのか味方となるのか――。
彼を、青龍の武神将勢力の対抗手段としての切り札にと目論むのは、シバとギル。
状況に戸惑う姫の薬草の知識を頼りに、懸命な介護の甲斐あって、そして彼は目を覚ます――。
シバ以外、誰もが知らない。
新生玄武の治癒力の介助もそこにあったことを。
神獣の力を感じ取れるそのシバですら、新生玄武の疑念まではわからない。
皇主が倭陵の中枢に座して民から崇められるのは、女神ジョウガに祝福された、その血流だと言われるからである。
だが新生玄武には、皇主が力を持たぬことを知っていた。
この者が抱くこの力、本人の意志の知るところか知らぬところか。
この男の存在は、この国にとって吉なのか、凶なのか。
真実を看破できるほどの平生の力を持たぬ今の新生玄武は、人事不介入の他国といえども、主である女神ジョウガより倭陵の鎮護を命じられた立場にから、倭陵に起きている不可解な事態を把握せねばならなかった。
そんな異変を漠然とながらも"不吉"なものとして感じ取っていた玄武の武神将は、彼もまた青龍の祠官の息子を連れて、今まさに未知なる場所へ忍び込もうとしていた――。
~倭陵国史~
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