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吼える月
第24章 残像
「だから一体なんなんだよっ!!」
「サクお兄さん、しーっ!! しーったら!!」
凶々しい赤き光に照らされて、渦巻く海水の中に不気味に聳える青龍殿。
水面に映る赤黒い影の中に浮かぶ小さな帆船から、サクとテオンの大きな声が夜空に響く。
まさにこれから忍び込むために、顔つきを硬化させてテオンと打ち合わせをしていた最中、サクは感じ取ったのだ。
ユウナの異変を。
儀式によってサクとユウナを繋いだ神獣玄武の力。
サクかユウナか、どちらかの激しい心身の動揺にて、その身に纏う力に乱れがあれば、それが異変となって片方に返る。
突如サクを襲った動悸と喉のひりつき。
極度の緊張状態を告げるそれは、ユウナからもたらされたものと思えば、恐れていた緊急事態がこんなに性急に訪れたのかと、必死にユウナに語りかけれども意思疎通出来ず。
ユウナから自分を求められていないからかと軽い消沈もあったが、そんな私情は後回しにして、とにかく現状を掴もうと、イタチと会話を試みれば、これまたまるで繋がらない。
遮断と言うより、妨害。
砂が落ちるようなざあざあとした音に、その声が掻き消されてしまうのだ。
ならば一層、危険が差し迫っているのだと、サクはテオンに待ったをかけて、とにかくユウナの無事を確かめたいと遠隔より会話を幾度も試みれば、ようやく繋がったその瞬間。
ユウナの声が流れ込み、彼女は無事だと安堵したその直後。
『リュ』
という謎の言葉を残して、またもやユウナの声は外部の忌まわしき音に妨害された。
リュという響きを持つ単語など、思い当たらない。
"リュカ"
ただその名前だけしか。