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吼える月
第24章 残像
"本当のお兄さんのように思えて"
父親に捨てられた身の上であれば、そう会ったばかりの他人に思うということは、それだけ家族の情に飢えているということである。
懐かれやすいのが自分の特質だと気づかぬサクは、そこで孤独なテオンを不憫に思い、同時にむっとした顔つきで言った。
「……お前、何気に俺のツボ抑えてるよな。そう言われたら下りろなんて言えねぇじゃないか。俺が単純なの、わかってて言ってるだろ。大した奴だよな」
同情を誘うテオンの言い方が、たとえ本心であろうとなかろうと。
今まで虐げられてきたものを見捨てられぬサクの性格からすれば同じ事。
「ふふふ、年の功さ。じゃあ火をつけていくからね」
「さっさとしろよ」
どちらが懐柔しているのかわからぬふたり組。
ただそこには、年や身分などの上下関係はなく、ただひたすら同等の仲間としての親愛の情が存在していた。
柱上部、テオンが火をつけた豪華な青い燈篭の数が増えれば、闇に隠されていた内装の輪郭が明瞭に目に映るようになる。
「しかし見事に人影がねぇな。警備兵に相当するのが渦の存在だとしてもよ、住人はどこへ? 連れて来られた大勢のざわめきも感じねぇ。本当に出入りしているのか? 実はここにいると見せかけているだけじゃねぇのか?」
「僕、ここに住んでいたんだよ? それに父様の薬も減ってるんだし、綺麗だろう? 廊下とか柱の彫り物とか。埃も煤も溜まっていない」
確かにそうなのだ。
「しかもこの廊……」
サクは目に、紺碧色の廊を映す。
ゆらゆらと揺蕩(たゆた)うその様は、まるで――。
「やっぱり目聡いね、お兄さん。そうさ、この廊の下は海だ」
そう、水の揺らぎそのもの。