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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
もしも今夜、離れと本殿を結ぶ鍵を外さなかったら、今頃リュカとの関係はどうなっていただろう。
今夜誰も死ぬことがなく、明日自分はリュカとの初夜を笑顔で迎えていたのだろうか。
ありもしない"もしも"話を、ぼんやりとユウナは考えた。
もしも今日、リュカに抱かれる覚悟をしなかったら。
もしも1年前、リュカを夫に選ばなかったら。
もしも13年前、リュカを助けなかったら。
もしもリュカという男に、深入りしていなかったのなら。
既に予言されていたこの凶事は、きっと起きることはなかったのだ。
運命という必然的事象ではなく、ただの取り越し苦労だったと笑って終わったはずなのだ。
すべては己の私情が契機となった、人災だ――。
リュカに利用されていることも知らず、裏切りを知って、彼の憎悪を知って。
それでもまだサクと変わらぬ友情を信じ、これはリュカの意志ではないと……極限の努力で、たとえ時間がかかろうともリュカを許そうとも思った。
だがその結果、サクは四肢を砕かれた。
そして今、自分は凌辱という形にて……倭陵を滅ぼす道具を不届き者に与えようとしている。
自分の認識の甘さが、臣下を父を殺しただけではなく、黒陵を滅ぼし倭陵を危機に陥れるのだ。
許せないのは、自分自身。
自分が、リュカという危険の種を大事に育て上げてきた。