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吼える月
第24章 残像
「祠官かジウ殿に会って、詳しい話を聞きてぇな」
「だけど、見ての通りいないんだよね、とりあえず、父様の部屋に行こう。さあ、もう大体は灯つけたから、僕を下ろして……」
「――っ!?」
「うわわ、なに、なに!? お兄さん!?」
身を屈ませたサクから、テオンが飛び降りようとした時、突然サクが立上がりテオンは再び高く持ち上げられてしまった。
「誰か、いる」
――視線、だった。
殺気とも警戒ともまた違う、ただ"見られている"だけのもの。
いわば、ふたりを排除すべきか警戒すべきか、また別の術をとるべきか見定めているような、私情を捨てた無機的な視線。
それは刹那のうちに終わった。
「はあああ!? どこに!?」
きょろきょろし始めるテオンを下ろした後、サクは警戒に目を細め、懐から赤い柄を取りだし、片手で握りしめて言った。
「ここからだ」
サクが目で示したのは、下。
床だった。
「海からってこと!?」
――サク、二度感じる"奇妙さ"は、気のせいなどじゃねぇ。直感を信じて、警戒しろ。
「ああ。感じたのは、"上向き"の視線だ」
「待ってよ、それはおかしいでしょう? この屋敷の下に潜ったままってこと!? 魚でもないのに、どうして!? あ、もしかして僕達が屋敷に入ってきたから、慌てて飛び出して潜って様子を見てたとか?」
「その可能性はねぇことはねぇが、確率的に低い。俺の耳や目がそんな気配に気づかないはずがねぇ。ただ、屋敷の外にも視線はあった。最初から、誰かが俺達の動きを見張っているのは確かだ」
「気味悪いなあ…。なんでそんな場所から!? 普通に横からとかでもいいじゃないか」
「下からじゃねぇといかない理由があるのかもしれないな」
「たとえばどんな?」
「そういうことは、年の功がもの言うだろう」
「そっちが突然変なことを言い出したんだ、僕がわかるはずない……ねぇ、僕の父様はどこにいるんだろう。海に、いるのかな。ねぇ、生きているんだよね?」
揺れ動く模様を映し続ける青龍殿の廊。
ふたりがいくら覗き込んでも、青龍殿の主の影は見えなかった。
その残像すらも――。