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吼える月
第24章 残像
それから慎重に歩いても、視線はなかった。
「下、下から見られているって気がすると、落ち着いて歩けないというか」
「理屈はわかるが、だからってなんでまた俺に飛び乗る」
「だからお兄さんの代わりに、ちゃんと下を見張っているんだから。お兄さんは安心して前向いて歩けるから、一石二鳥でしょう!」
「……お前、中々に度胸あるよな。堂々と俺を使うとは」
「文句言いながら僕を肩に乗せてくれるお兄さん、大好き」
「……くっそ~。この甘えたがり確信犯め」
「年の功と言ってよ、うふふふ。ああっと、その突き当たりを右ね」
先ずは祠官の部屋に赴くことにしたふたり。
テオンを肩に乗せたサクが指示された場所まで歩いて行くが、特別変わった様子はなかった。
だが肌寒い。
テオンを肩に乗せていなければさらに寒く感じただろう。ユウナがしきりにイタチを首に巻きたがっていた気持ちがわかる気がした。
一度ぬくぬくとした暖かさを知れば、クセになりそうだ。
「……って違うだろうよ。さっきは火を着けているからと思ったけど、お前、熱出してねぇか?」
「だ、だしてないよ、僕は元気。ほぅら!」
「違うな。お前俺の肩に飛び乗ったのは、身体だるいせいなんじゃねぇのか!?」
「違うよ、僕は歩くのが恐くて……」
「ちょっと下りてみろ」
「僕ここがいい」
「ガキみたいにわがまま言うな、年上のクセして。いいから、ほら」
そして引きずり下ろしたサクがテオンの額に手を当てると、テオンの額は明らかに熱かった。その手をテオンは慌てたように払った。
「お前なぁ……。体調不良なら早く言えよ、幾ら俺だってお前を無理して連れようとは……」
「いいんだよ。お兄さんと一緒なら元気になれるし、それにこれは一過性のものだから」
「一過性? そのなんだかという病気の後遺症か?」
「後遺症といえばそうだけれど、力を沢山使った後は、体力が極端に消耗して熱を出してしまうんだ。だけど【海吾】の皆には、こんな力は秘密にしているし、力は命の危機になった時しか使わないから、ちょっと油断しちゃって……。大丈夫、時間が経てば……」
「経つまでが苦しんだろうが。ほれ」
サクはもう一度額に手を当てると、再びその手を払おうとしたテオンに手を反対の手で押え、そのまま目を瞑った。