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吼える月
第24章 残像
 

「お兄さん、なんの音?」

「それは俺の台詞だ。なんだか俺の頭上斜め後ろ付近に、嫌な気を感じるんだが……」

「斜め後ろ……? あ……」

「……なんだ」

「あ……」

「だからなんだ!!」



「お兄さん、走って走って、全力疾走!!」

「はあああ!?」


 そして、サクが言っていた位置から飛んで来たのは、弓矢。

 背を向けていたサクの身体は無意識にそれを避けた。


「人はいないんだけれど、弓が僕達を狙ってい……ああ、あそこからも。なにあれ、なにあれ!?」

「知るか!! とにかく走るぞ!! テオン、落ちないように捕まってろ!!」



 ビュンビュンビュン。


 間一髪でぎりぎりのところで避けて走るサク。

 その矢はあらゆる角度から一斉に放たれ、それを回避出来るのはひとえにサクの生存本能のおかげだった。

 あとはハンのしごきのおかげでもある。

 こうした武器が隠されていた罠は、シェンウ家でよく仕掛けられていて、小さい頃から何度も何度も命がけで脱出させられてきたのだ。

 鍛錬と称して。



「あああ……っ!?」

「今度はなんだ、テオン!!」

「あっちから、あれ、あれあれあれ……」


 目の前にあるのは、どこから出て来たのか――、天井に届きそうな高さと道一杯の横幅を持つ、大きな鉛玉。

 それが勢い良くこちら側に転がされてきたのだった。


 ゴロゴロゴロゴロ……。
 

 後ろに走れば弓矢が飛ぶ。

 前からは天井ギリギリの高さに吊られた燈篭を、烈しく揺らして転がってくる。


 そして横壁には部屋や窓はなく、下はどんな武器の貫通も許さぬ輝硬石の床。


 避けきれる隙間はどこにもない。

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