この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第24章 残像
◇◇◇
ざざぁぁん…。
潮騒の音が、夜更けの海に大きく響き渡る。
遠方より急くように打ち寄せてくる波は次第に高いものとなり、満潮期が近いことを伝えていた。
生温かく血生臭い風が波を押すようにして、【海吾】として生きる子供達の住まう砦に吹きあたるが、砦の土壌である浮石はびくともしない。
外でなにが起こっているのか――。
それを一切知らずして、否――、知ろうとする余裕などなく、今にも息絶えそうなひとりの怪我人の治療と看護に懸命になっていた。
最強の武神将が黒陵にの姫に伝えた、"山で怪我した時の応急処置"の知識は、多くの薬草を適当に患部につけておけばよくなるだろうという、安直な考えしかなかった蒼陵の民を驚かせた。
患部に応じた適切な薬草の選択、そして組み合わせ。煎じる時間もない場合に伝えられていたのは、薬草を口の中に入れて歯で柔らかくすること。
壊死しそうな患部が広いため、ユウナは大勢の子供達に手伝わせて、そしてギルに、桶に入った湯をこまめに取り替えさせた。
――な、なんで俺が……。
どう見ても、不器用そうなギルが文句を言えば、ユウナの目は吊り上がり、ギルの足を思いきり踏んで叫んだ。
――偉そうにふんぞり返ってただ見ているだけなら、貴方も動きなさい!! シバのように、細やかなことが出来なくても、体力なら自信があるんでしょう!? 今いかさず、いついかすのか!?
命令口調になるユウナには、覇者としての威圧感を漲(みなぎ)らせているものだから、飲み込まれたギルは、うーだのあーだの面白くなさそうな言葉を発するのを、シバは笑いを堪えながら薬草を抑える布を裂いたり、イルヒが煮沸した刃物で、醜い色に腫れ上がった部分を裂いて膿を出していた。