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吼える月
第24章 残像
そんなユウナの活躍と共に、ユウナが首に巻く白イタチ(もといシバ以外は、胸もとに潜り込んでいる小亀としてしか目に映らない)が、治癒の力を施していたのは、その力を感じ取れるシバ以外は気づいていなかった。
――なあに、シバ。ぬくぬく気持ちがいいイタ公ちゃんが欲しくても、あげないわよ!? イタ公ちゃんも、あたしの方がいいと言っているし。
――お前は、イタチの言葉がわかるのか!? というか、いつ喋った!?
――イタ公ちゃんはサクとだって会話できるのよ。こんなに偉い子……触らないでよ、イタ公ちゃんが怒っているわ、気安く触るなって。イタ公ちゃんの定位置は、あたしの首なの。あげないわ!!
完全に勘違いしてしまったユウナが、敵対心を出してイタチをシバの目線から隠そうとするものだから、シバはひとによってイタチにも亀にもなる上に力を持つ珍妙な存在が、黒陵の武神将と姫と会話できる……真に神聖なるあの神獣なのかどうか、観察することが適わなくなってしまった。
やがて――。
「ん……」
看護の甲斐あって、峠を越したらしい男が身じろぎをして声を漏らした。
今まで閉ざされていた目が開く――。
まるで禁忌の箱を開く瞬間に居合わせているような、妙に緊張した心地で、ユウナは動悸を鎮めるために首に巻き付けたイタチを撫でた。
「ここは……」
清潔な調度に飾られているこの部屋は、この砦内ではギルの部屋の次に上質な部屋らしい。
天蓋に覆われた豪奢な彫刻が施された寝台で、開かれた瞼の奥にあったのは、黒い瞳だった。
どう見てもリュカと同じ寝姿を披露していたというのに、目覚めればその色彩が違う。つまり、存在する"価値"が違うのだ。
男が持つのは、輝ける色彩を纏うリュカには持ち得ない、倭陵の民として認められている正規の色。
だがリュカにしか持ち得ない、その面立ち。