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吼える月
第24章 残像
「だとしたら、あらかじめそうした準備の上での芝居だったと思わずにはいられない。捨て身でここに乗り込んだのは褒めてやろう。ここまでの瀕死状態になるとは思っていなかっただろうしな。迂闊に傷を作ったまま海に入るとこうなる。足を斬らずにすんだのは、ユウナのおかげだ」
「そりゃどうも、娘さん」
くつくつと笑いながら、ユウナに流し目を寄越すスンユは、目許に挑発的な艶を織り交ぜる。
リュカの顔でそうした誘惑じみた艶は、ユウナにとって一番苦手なものであったから、くらくら惑わされる…というよりも、思い出したくないことまで思い出して、ユウナは悲痛な面持ちで横を向いた。
その心情がわかったかのように、再びスンユはくつくつと笑った。
「ここに目をつけたということは、既にオレ達と子供達で構成された砦だということは知り、当然オレ達との"交渉"のためのリスクを考えてたはずだ。
今、オレ達の拠点にいるお前は怪我人で、少なくとも今この場所には仲間はいない。お前の潜在能力はわからないが、今ここでオレとギルに殺される場面を想定していないはずはないだろう」
「それで?」
「お前は皇主の三男という肩書きをひけらかしてはいるが、それに対応するだけの勢力をオレ達に見せているわけではない。ひたすら肩書きだけで、オレ達を釣ろうとしているだけ。拒まれれば、数で威圧しようとしていたか」
「ん~、思った以上に鋭い観察眼がある君やギル殿には、素直に敬意を示したい。正直、そこまで考えられるとは思っていなかった。海の国での座礁…というものを軽く見過ぎていたようだ。それなのに四肢を繋いだまま命を救ってくれるというのは、愛おしいほど――」
そしてスンユの目が……
「愚かだね」
冷たくなる。