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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
 

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 出ない声。

 動かない体。


 目を瞑ることも耳を塞ぐことすら出来ない……、ただ惨たらしい光景を見て聞くことだけを強いられたサクは、怒りと嘆きに発狂寸前だった。


 なんだこれは。

 なんなんだよ、一体――っ!!


 愛しい女が自分を守るために陵辱されている光景。

 たとえ自分の想いが叶わずとも、自分はその肌に触れることがなくとも、穢れを知らないあの清らかな体は護られるべきもので、それにより自分が護られることはあってはならないことだった。


 それが、あっさり不可解な未知数の輩に侵入を許し、指一本触れられずして自分の四肢は砕かれ、自決の自由すら奪われて。


 目の前のユウナは、獣のような屈辱の姿勢にて、後ろから暴漢にそそり立つものを貫かれ、戦慄に震える白い太腿からは、彼女の純潔が散った証が、垂れているのが見える。


 そして彼女が咥えているのは、幼なじみであり親友だった男のもの。

 サクが欲しくてたまらなかった許婚という肩書きを勝ち取った男は、ユウナを助けるどころか奉仕をさせて屈服させ……それに快感を覚えた艶めいた顔をし始めている。



 なにをしてるんだ。

 リュカ、お前だけが姫様を助けられるんだぞ!?



――お前は……他の奴に姫様を渡したいか?

――渡したいはず、ないじゃないか。



 ユウナを愛していないはずはない。

 リュカはずっとユウナを愛していた。


 たとえあの金の男に脅されてこの惨劇を引き起こしたとしても、それがユウナを苦しめる最悪な脚本であっても、それでも男としてユウナを助けるべきだと思うのに。


 ユウナが好きであれば。僅かにでも情があれば。

 それなのにリュカは……ユウナを性奴のように扱う。



――ユウナを……。


 お前……。


――必ず幸せにする。


 あの宣誓も……ここまで嘘にするのか。


――確かに、僕自身ですら本当のように"錯覚"するほどの、13年来の演技の出来ではあったけどね。


 そうかよ。

 そこまでなかったことにしたいのかよっ!?

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