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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
 

 崩れゆく――。

 13年で培ってきた、愛しい姫を慈しんで護っているという自負は、塵埃が舞い上がるかのように、儚い自己満足にしか過ぎぬことを思い知らされた。


 香しく匂い立つ花を、美しく咲かせるまでに護り通した結果、望まぬ誰かに無残に散らされた。


 散らせるために美しく守り通してきたわけではない。散る様を見るために、護衛をしていたわけではない。

 あの……凄惨で痛々しい表情を見るために、傍にいたわけではないのだ。


 破瓜の痛みに歪んだユウナの顔は、流れる涙でぐちゃぐちゃで。それでも気丈にも、その場に崩れ落ちようとはしなかった。

 穢れを知らぬ一国の姫が、初めて目にする男の生々しい性器を口に入れられ、そして同時に暴漢に純潔を散らされていながら、彼女は抵抗をしなかった。

 抵抗すれば、サクの命にかかわると思っているからだろう。

 それがわかるからこそ――。


 泣きたいのに涙が出て来ない。

 叫びたいのに声が出てこない。



 誰からも愛される姫だった。

 誰よりも幸せになるはずだった。

 誰よりも自分が幸せにしたかった。



 姫様、姫様、俺を見ろ――っ!!



 少しでもこちらを見てくれれば。

 そしたら動かぬ全身で、伝えるのに。


 自分など捨て置いて、逃げろと。

 自分にはユウナに体を張られる価値はない。

 そんなユウナを見て、自分は生きてなどいられないと。



 だがユウナの目はこちらを向くことはなく、自ら淫猥な宴に身を投じてしまった。
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