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吼える月
第24章 残像
「へんってどうへんなんだ?」
「全て火を灯したはずなのに、所々火が消えているんだ。お兄さん、もうちょっと左に移動して…あ、ここで止まって。これ以上は矢が飛んでくるだろうから。僕よりお兄さんの方が目が良いから、この距離で十分見えるはず」
サクは目を細めて、天井付近にぶら下がっている、奥に整然と一列に並んだ燈篭を見つめた。
豪奢な装飾に彩られた、逆台形の面の縁には、ツタのような蛇行線を基調とした、神獣青龍を表す模様が描かれている。中に火が灯っているため、浮かび上がる模様の青さが幻想的だ。
改めて思えば、全部火をつけたはずなのに、建物の深層へと伸びる道は薄暗い。前と変わらぬ展開が待っているのなら、今いるこの"安全領域"を踏み出した途端、角度を変えた様々な場所より矢がサク達を狙うはずだ。
今まで幾たびも、目の前に広がる…振り切ったはずの同じ風景に驚愕し、そうした罠を今度こそはこれで最後にしようと夢中になっていたために、燈篭の様子など注視していなかった。とはいえ、あまりに灯の違和感に気づかなすぎではないかと自嘲的な気分にもなる。
「あ~、確かにところどころ消えている燈篭があるな。一番近いので手前から3つめか。俺がさっき、苛立って矢の狙い口を剣で叩き斬った際の風圧で消えた……可能性はまったくない場所だな」
「そう。お兄さんが剣振ったのはもっとずっと奥だったよね。それに風圧のせいであれば、その近くの燈篭も同時に消えているのならわかるけれど、一度しか剣を振っていないというのに、消えている場所、随分と不規則に飛び飛びすぎだよね。風なんて吹いちゃいないし」
「……念のために聞くが、灯を保てるだけの蝋の長さはあったんだろう?」
「勿論さ。あれでひと晩以上は絶対もつ。極端に短いのはなかった」
だとすれば――。
サクとテオンは燈篭を見つめた。
燈篭に火をつけたのはこちらの意志。だが明らかに不自然な火の灯り方となっている今、疑うべきは、誰の仕業かというよりは……、
なぜその燈篭の灯が消えているか、なのか。
なぜその燈篭の灯がついたままなのかなのか。
……よくわからなかった。
ひとつ言えることは……、燈篭の灯のつき方に、なにか故意的なものを感じる不自然さがある…ということだけだ。