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吼える月
第24章 残像
「……ねぇ、お兄さん。考えてみれば、僕が燈篭に火を灯し終えた後、あの先から罠が襲いかかってきたよね。ガチャンって音がしてさ」
「そうだな」
少し沈黙が流れ、そして今度はサクがテオンに聞く。
「なぁテオン。お前ひとりでここに入った時、すべての燈篭に灯をつけていったのか?」
「そんな手間かけないよ。今はお兄さんと観察したい上に、お兄さんが動く踏み台になってくれたからきっちりつけたのであって。大体ちびっ子の僕があんな高いところにある燈篭を全部つけるのはひと苦労だから、移動式の燈篭用意してたり。なにより僕、いつもは夜にここに来ていなかったから、灯なんて必要なかったんだ」
「お前が住んでいた時はどうだった?」
「父様がすべての燈篭の灯は明るすぎるって言ったから、すべてはつけてなかったはずだよ。どこがついてどこが消えていたかは記憶にない」
「だったら、燈篭全部に灯をつけたのは今回が初めてか」
「僕の知る限りでは、多分ね」
そして、ふたりは声を合わせた。
「「まさか、燈篭の灯を全部つけたことで、罠が発動されたのか!?」」
あるいは――。
「あるいは僕が、いつもはつけられていない、罠発動がしかけられた…」
「特定の"ある"燈篭に灯をつけてしまったために、罠が動き出したのか。…そちらの方が可能性が高いな、外敵が侵入したとして、全部燈篭に灯をつけないと罠が動かないなんて非効率的だ。
だが罠とは、様々な場合を想定して仕掛けるのが常。だとすれば、燈篭の仕掛け方も複数ある可能性がある。すべての灯も罠のひとつだとすれば、色々と試して迂闊に手を出すと、別の罠が動き出す危険性もある」
「うわ、まったくなんなのさ、この家、この燈篭!! このままだと、毎回形状を変えて入り口に戻る、こんなへんてこりんな無限回廊化した屋敷に閉じ込められることになる。出口のない僕の思考だけでもなんとかしなきゃ。
ああ、あんなに何度も燈篭の前通っていたのに、なんで燈篭の灯を気にしなかったんだろう。僕、高い位置にいたくせに!! 毎回燈篭の灯のつき方が違うために毎回形状が違うのか、法則性が導けないじゃないか」
髪を掻き毟って呻き出すテオンの小さな背を、サクはその大きな手でぱんぱんと叩いて励ます。