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吼える月
第24章 残像
「別に? だってまんまじゃねぇか。まあ、玄武本人が嫌がるから、つるつる亀やめて白いふさふさにしてやったけど、中身は玄武には違いねぇ。本人は、毛のねぇつるつる姿より、ふさふさな毛並みのイタチ姿がお気に入りらしいが、なんでそこまで毛が欲しいのか、あいつの感性も…笑いのツボすら謎だ」
サクは、背筋が寒くなりそうな洒落話に「いっいっいっ」とおかしな顔で笑って、過剰反応するイタチを思い出しながら、僅かに顔を引き攣らせた。
究極の美貌を持つ人型で、さらして欲しい感性ではないが、ユウナから遠ざける場合に、そうした残念さを見せつけるのも手かもしれないと、サクは密やかに思う。
「……っ!? ま、待ってお兄さん。白いふさふさに"してやった"って、まさか本当にあのイルヒが遊んでいた小亀、シバもイタチに見えるっていう不思議な生き物、黒陵の神獣玄武なの?」
「おう。おかしな奴でさ、イタチのくせに二足歩行だぜ? 食い意地はって、ネズミ喰うか腹空かせるか寝てるかしかねぇけど、あんな目をくりくりさせた可愛い姿でも、やたら口うるさくて人のこと馬鹿にして、真っ赤な目でシャーって牙剥いてすぐ怒るけど、まあ……涙もろいいい奴なんだ。慈愛深い神獣なんだとさ」
好意を見せて破顔するサクの上で、テオンの顔が引き攣った。
「それ、本当の本当の本当の話?」
「勿論、本当の本当の本当の話だ。嘘ついてどうするよ」
「神獣って、そんなおかしな生物なの!? 玄武が…イタチ!? 喋るの、あの亀…じゃなくて本当はイタチが!?」
「ああ、饒舌で威張り腐った口調だがよ」
サクは、なんでもないというように呵々と笑った。