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吼える月
第24章 残像
 

「火が消えねぇ? 矢の罠は止まったのに? ……なんだか嫌な予感……」

「ひぃぃぃっ!! お兄さん、お兄さん、床見ないで!!」

「床? なんだこれ!! これ、この顔――」


 すべての灯がついた、明るい廊。

 透明な輝硬石の床が、暗い海と共に映し出したのは――。


「餓鬼――っ!?」


 黒陵での悪夢を作り出した、崩れた輪郭を持つ……かろうじて人型の化け物達。それはかなりの数だった。

 それらが海下から床にへばりつくようにして犇(ひし)めきあい、まるで床の模様のようになりながら、裂けた口を動かして床を囓り、澱んだ眼球に狂気を迸らせていた。


 食の本能の塊である餓鬼が、輝硬石の床を食らったら、この屋敷は海に沈むだけではなく、これだけ多くの餓鬼に囲まれて屋敷に閉じ込められたままで生き延びれる保証がない。


 さらに運悪く、同時にサクが感じ取ったもの。



「――姫様!?」



 それは、ユウナの波動のぶれ。

 彼女の動揺を示すように、大きく揺れ――、すぐ消えた。

 ユウナの動揺が落ち着いた……というわけではなく、サクがユウナを一瞬で感じ取れなくなってしまったのだ。


 力の繋がりが、遮断された――。


 なにか彼女の身に起きていることを感じたサクの注意は、今自分の身におかれてある状況よりも、ユウナの方に注がれてしまう。


「姫様!? ここまでの動揺……、もしかして……"リュ"、リュカが来たのか!? リュカになにかされているのか!? ああ、くそっ!! なんだよ、この分断されたような感覚。イタ公、イタ公……っ、なんで応答ねぇんだよ、寝てるのかあいつ――っ!!」


「お兄さん、お姉さんより、まずこの気持ち悪いのなんとかしなきゃ。なんだか床がぴしぴし言っているし、これ走り抜けた方が……」


「姫様、姫様っ!!」


「だからお姉さんより、……ひっ!? やばい、やばいよ、この床壊れそうだよ。なんだよ、この気持ち悪いの!? お兄さん、なに固まってるの。お兄さん、まず走ろうよ、ねぇなんだかやばい気がするからさ!!」


 テオンがサクの頭をぽかぽか叩いた時、


「姫様――っ!!」


 サクの身体から、ぶわりと水色の光が広がった。


 会いたくても会えない彼の苛立ちが、無意識にサクの身体から力という形を得て、外に放出される。

 
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