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吼える月
第24章 残像
「――そこで切るなよ…端的過ぎるだろ!? 無事な姫様が動揺した"リュ"が一体なにか、それをまず言い切れよ。なんで姫様もイタ公も、"リュ"で終わるんだよ。わざとか、いじめか!? 俺をからかって面白いか!? イタ公、イタ公――っ!!」
「お兄さん、お兄さん、あっち側……っ、逃げたいあっち側から音がしたよ。あっちに逃げられないのなら、やばいよ、やばい、どうしよう!!」
「"リュ"ってなんだ――っ!!」
「知るか――っ!!」
反射的に、叫んだテオンの手刀がサクの脳天に落ちた。
「いってぇ……っ。って、え、は!? テオ……なんだ、このぴしぴしって音。床に皹っ!? なんだよこの状況!! こんなになる前に早く言えって!!」
「だからさっきから言っているじゃないか!! ああ……もうあっちは駄目だ。後退して逃げるしか……」
サクは、顔を強ばらせて舌打ちした。
「逃げたところで、燈篭をなんとかしねぇと、走り抜けてもまた入り口に戻される。そして、走っている間に屋敷に湧き出た餓鬼がいる道を、何度も走らされることになるかもしれねぇ」
「じゃあどうするんだよ!?」
テオンの声は、混乱の末に涙混じりだった。
「該当する燈篭の火を消すしかねぇだろ」
それしかないというように、サクは断言した。
「簡単に言わないでよ。火は消えないんだってば!! お兄さんだって見ただ……あ、見てないか。お兄さんが飛ばした水色の力で、燈篭壊さずに火が一斉に消えたけれど、だけどまたすぐについてしまったんだ。あれ、神獣の力でしょう!? それでも駄目だったんなら……」
「消えた、のか……? 消えたんだな?」
サクの眼差しに怜悧な光が灯る。僅かにサクの顔が明るくなった。
「一瞬ね」
「だけど消えたんだよな?」
「消えたけど、すぐついた!! だから……」
「全部火を消したから、だとしたら?」
前方遙か奥に見える不穏な黒い影。それを細めた目で捉えるクの表情が、好戦的なものへと変わった。