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吼える月
第25章 出現
 



 ◇◇◇




「どうだ、青龍の武神将の隠し子、シバ?」


 ユウナの目の前にある寝台で、かつての婚約者の顔をした男が、気怠げに上半身を起こし、嘲笑うようなにやりとした表情でシバを見つめていた。

 晒した真意にシバが従うものだと信じてやまないその姿は、どこか超然として。こうした事態を迎えたのは、まるで予定通りとでも言いたげに。

 皇位継承権がない皇主の三男、スンユ――。


 あるのは皇主の息子という尊い血流と、この【海吾】を制圧できるほどの勢力らしい。

 どこか掴み所がないこの男、瀕死寸前の負傷した身体を介抱させることで【海吾】の懐に潜り込み、自らの望みを叶えるべく優位な事態を呼び寄せたというなら、その"目的"のために身体を危険にさらす度胸もあったということだ。

 そこまでの危険を冒す必要があった"目的"はなにか。

 どうして、そんな無謀にも思える策を選んだのか。


 ユウナは、計画通りだというように得意げに笑うスンユを見ながら、なにか腑に落ちないひっかかりを感じた。


 元からこうした二者択一をつきつけるつもりなら、始めから持てる勢力でこの砦を包囲なりすればよかったのだ。

 身体を危険にさらすことで、自ら命を落とす可能性もあった。そんな危険な選択肢を、わざわざ選ばなくてもよかったはず――。

 他にまだなにか魂胆があるのではないかと思ったユウナは、不確かで不穏なものを欲しがるスンユに口を開きかけたが、それを止めたのは、すっと横から伸びたシバの片手だった。

 ユウナを振り返りもせずに制するシバの端正な横顔は、あまりに無表情すぎ、ユウナは心情を読むことはできなかったが、ユウナに生じた猜疑心を知ってか知らずか、なにかを確信しているような強い眼差しをしていた。



「……鍵の在処(ありか)を知っている、としたら?」


 シバの深みある声音が響いた。
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