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吼える月
第25章 出現
 
 躊躇(ためら)ったり、妙におどおどするでもなく、相手が望むものが持ち札にあると素直に認めたシバに、ギルもユウナもぎょっとした顔を向けたが、ふたりがシバを諫める言葉を口にする前に、スンユは興奮したように言葉を返した。


「話せ。青龍の鍵は何処に!?」

「………」

「さあ、早く!!」


 身体は完治していないのに、飛びついてきそうな勢い。


 鍵が欲しくてたまらない……、スンユはそうした素の部分を見て、ユウナはそこまでして、スンユも「女神ジョウガの箱」を得たいのかと、目を細める。

 鍵が欲しいのはスンユだけではない、リュカも……のはずだ。スンユがリュカを排除しようとするのはそれが原因なのかはわからないが。

 ユウナの純潔こそが玄武の鍵だとリュカ達は告げたが、彼らが純潔を散らしても、胎内からなにか物理的なものを取り出した感覚はなく。玄武の鍵というものが本当にあったのか、どんな鍵なのかすら、形として目にしていないユウナはよくわからなかった。

 ジョウガの箱すら不得要領なのに、それを開けるとされる四神の鍵。

 黒陵の玄武のものは、胎内にも存在でき、物理的な姿形はなくとも、鍵だと認識できるという不可解なものだった。

 では蒼陵の、シバの知る青龍の鍵とは、どんなものだろう――。



 訝るユウナの横で、シバが怜悧な目を光らせた。


「鍵を使って箱を開きたい理由は?」

「教える必要はない」


 顔をそらして、解答を拒否したスンユ。対してシバは、泰然と言った。


「ならば、鍵の在処を話す必要もない」


 ぴしゃりとシバが言い放てば、僅かに余裕を崩したスンユの顔がシバに向き直る。


「話せ。私の力が、大義が欲しいだろう?」

 
「鍵の前に、お前の持てる力や大義など、ちっぽけなものだ。そうお前が思うから、取引条件にしたんだろう?」

「……っ」

「鍵が欲しいというのなら、この話はなしだ」


 蜂起以上に鍵の方が大切なのだと、やけに強気に言い切るシバに、ユウナは目を瞬かせた。

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