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吼える月
第25章 出現
「ここが私に攻められてもいいのか」
「攻め入るというのなら、来るがいい。たとえどんな武装をしていようと、このオレが相手になってやる」
ぶわりと、シバから放たれたのは殺気にも似た戦意。
それとよく似たものを、ユウナは武闘大会の観覧席からジウに感じて、鳥肌をたてていたことを思い出した。顔は厳めしいながらも性格は温厚だったジウが、闘う決意をしてそう豹変してしまったら、あのサクですら怖じ気づくほどに、手におえない獰猛な獣と化して猛攻する。……それを抑えられるのは、最強の名を持つハンだけだった。
いくら否定しようと、いくら顔が似ていなくとも、シバはジウの血を引いているのだ。ジウと瓜二つの顔を持つギル以上に、濃い血が流れているのだ。
そんなシバに対して、スンユの唇が僅かに震えているのをユウナは見た。
スンユがいかに賢しく大胆さを持つ皇主の三男であろうと、闘い慣れした武人ではない。間近でこの覇気を浴びてしまえば、本能が震えるのだろう。
「よ、よく考えろ。ここの長もここの子供達も、この姫も危険にあうんだぞ。お前の判断ひとつで……」
シバは、不安がって部屋の片隅から見ている数人の子供達やイルヒ、そしてギルを無表情で見つめ、そしてユウナに移したその目を微かに揺らした。
「構わない。オレが皆を……姫を守る。少なくともオレは、護り続けないといけない理由がある」
――お前を信じるからな、シバ。
その毅然たる様に、ここにいないサクの姿を見つけたユウナは、嬉しくてたまらない心地になり、涙が出そうになるのを俯いて誤魔化しながら、首にいるイタチの尻尾をぎゅうぎゅうひっぱった。
イタチはびくっと動きかけたが、その後は無反応な"襟巻き"のままだ。