この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第25章 出現
「今後の境遇もよく考えろ。お前の意志ひとつで、こんな海底に住まう"穴蔵"ではなく、もっと広い大地にて身分をもって堂々と歩けるのだ。倭陵を救った英雄として」
「海底……?」
ギルとスンユが同時に聞き返す。
「ああ、こんな海の底ではなく……」
「ここは海上だ」
ギルの言葉に、スンユは眉間に皺を刻んでなにか言いたげにしていたが、やがてはっとしたように目を見開き、不自然に目を泳がせた。
シバはそれを見逃さなかった。
「もう、隠すのはよせ。お前は――」
シバが畳みかけようとした時だった。
「兄貴、大変だ――っ!!」
声を張り上げて、ひとりの少年が部屋に入ってきたのは。
「兄貴、兄貴、外が大変なんだ!! 船が……大きな砲筒を向けてる沢山の船が、ここを取り囲んでいる!!」
シバは慌ててスンユを見た。
「違う……」
スンユは青ざめていた。
「私じゃない。なんで……もっと遅い予定だったのに!!」
ギルがスンユの胸倉を掴んで恫喝する。
「責任を誰になすりつけようとしているんだ、お前は!! お前だろうが、お前自身がそう言ってたんじゃねぇか!!」
その顔は厳めしさを越え、猛獣が威嚇するような迫力があった。
……思わず、襟巻きが身じろぎするほどに。
「ギル、こいつじゃない」
助け船を出したのは、シバだった。
「あ!?」
「この男のはずはない」
「なんでそう言い切れるの!?」
思わず叫んだユウナに、シバが答える。
「この男は仲間を連れていない。単身でここに乗り込んだ」