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吼える月
第25章 出現


「今後の境遇もよく考えろ。お前の意志ひとつで、こんな海底に住まう"穴蔵"ではなく、もっと広い大地にて身分をもって堂々と歩けるのだ。倭陵を救った英雄として」



「海底……?」


 ギルとスンユが同時に聞き返す。


「ああ、こんな海の底ではなく……」

「ここは海上だ」


 ギルの言葉に、スンユは眉間に皺を刻んでなにか言いたげにしていたが、やがてはっとしたように目を見開き、不自然に目を泳がせた。

 シバはそれを見逃さなかった。


「もう、隠すのはよせ。お前は――」


 シバが畳みかけようとした時だった。





「兄貴、大変だ――っ!!」




 声を張り上げて、ひとりの少年が部屋に入ってきたのは。



「兄貴、兄貴、外が大変なんだ!! 船が……大きな砲筒を向けてる沢山の船が、ここを取り囲んでいる!!」


 シバは慌ててスンユを見た。



「違う……」


 スンユは青ざめていた。



「私じゃない。なんで……もっと遅い予定だったのに!!」



 ギルがスンユの胸倉を掴んで恫喝する。


「責任を誰になすりつけようとしているんだ、お前は!! お前だろうが、お前自身がそう言ってたんじゃねぇか!!」



 その顔は厳めしさを越え、猛獣が威嚇するような迫力があった。

 ……思わず、襟巻きが身じろぎするほどに。




「ギル、こいつじゃない」



 助け船を出したのは、シバだった。


「あ!?」

「この男のはずはない」


「なんでそう言い切れるの!?」


 思わず叫んだユウナに、シバが答える。



「この男は仲間を連れていない。単身でここに乗り込んだ」

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