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吼える月
第25章 出現
「えええ!?」
「おい、シバ、だって今まで……」
「はったりだ。鍵がすぐにでも欲しいのなら、こんな七面倒な怪我人にならなくとも、最初から船なりで攻めてくればいい。
オレ達の様子をみながら、臨機応変に態度を変えつつ、オレ達が逃れられないような囲いを作りにかかっていたんだ」
「はぁぁぁ!? はったりだったのか、てめぇ」
スンユの美しい顔が恐怖で歪んでいて、真実の処は語られない。それに憤怒したギルがさらに顔を真っ赤にさせて、猛獣の如く詰め寄る。
「はったりでもないさ、ギル。兵を出せるのは今ではない、というだけ。それまでの時間稼ぎをしていたんだろうが……」
「そうなのか、おい!!」
スンユは、血の気を失った口を引き結んで顔を背けた。
「聞いているんだ、はっきり……」
「お黙りなさいっ!!」
怒声を制したのはユウナだった。
「この子が見た船がスンユ殿のものではないというのなら、それがなんの船であるのか、それを突き止めて策を練る方が先でしょう!!」
ギルは驚愕に満ちた顔のまま、ユウナの迫力に飲まれて仰け反った。
「砲筒が向けられているのなら、好意的ではないのは明らか。緊急事態じゃないの!! 今、優先すべきものを間違えたら、全滅よ!! あなたは子供達の命を預かっているのよ、守ることを考えなさいっ!!」
「うっ……」
少女の叱咤に、ギルの眉が情けなくハの字型に傾いていくのを見て、シバはくくくと喉もとで笑うに留めた。
ユウナは船を見たという子供に尋ねた。
「船の特徴は? それはジウ殿の船?」
子供は首を横に振った。
「初めて見る船なんだ。船に模様がある」
子供が、宙に指で図形を描く。
それは――。
「その模様は、まさか、まさかここに来たのは――」
絞るような声を上げたユウナの前でスンユが言った。
「来たんだろう、神獣玄武を祀る黒陵の……新祠官が。あいつが来る前に、鍵を奪いたかったのに!!」
"玄武の模様"を船体に刻み込んだ黒陵の新祠官、それは――。
――苦しめ、ユウナ。
「リュカ!!」
――姫様、俺は絶対3日で戻って来ます。…シバを信じて。
ユウナは、悲鳴のような声をあげ、心でここにはいないサクの名を呼んだ。