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吼える月
第25章 出現
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「数は五十そこそこ。すべて武装船だ。一応ここは臨戦態勢にさせてる。
あの距離感……、あの砲筒の射程距離内で、ここを取り囲むようにぴたりと停めてやがる……。あれは、船の砲筒の威力を十分に熟知した者がとる、ぎりぎりの距離だ」
かなり遠いところまで鮮明に見えるらしい…【海吾】特製の望遠鏡で、外の状況を確認したらしいギルが、戻ってくるなり面白くなさそうに言い捨てた。
「付け刃とは思えねぇ、あの陣形を乱さぬ包囲陣。黒陵は、いつから蒼陵とろうと動いていたんだ?」
皮肉げな言葉に舌打ちまで寄越され、ユウナは顔を曇らせながら言う。
「ありえないわ。黒陵は山に特化した戦術を嗜(たしな)む国で、海上戦術には長けていないし。船は専ら旅行用であり、黒陵の祠官はおろか国を守る警護兵でも、船の備蓄は無論、船に関する知識すらもっていない」
「おう、そうか。そうなのに、なんで黒陵の船が乗り込んで来るんだ!? どういうことなのか、説明しろよ、黒陵の姫さんよ!!」
威嚇めいたギルの凄みに、ユウナは内心悲鳴を上げたいのをぐっと堪えて、毅然と答えた。
「そんなこと、あたしの方が聞きたいわ。大体海の国をどうにかしようとして、事前に密やかに海や船の知識を得ていたというのなら、最強の武神将に育てられたサクにその知識があるはずだわ!! サクに船の知識がないの、早々にシバだってわかってたでしょう!?」
――襲ってきた船が、あんたの息がかかっていようがいまいが、皇主直系のあんたの身柄はこちらで拘束させて貰う…。
壁に顔を向けたままでこちらを背を向けるスンユの横、壁に背を凭れさせながら立つシバは、腕組みをしたままで頷いた。
「ああ。確かにあいつは船をおろか海のことなど知らないな。知識があれば、ここに寄らずにさっさとユウナを連れて青龍殿を探しに船出していただろうさ」
「シバ、そう見せていただけとかは?」
「そんな!!」
「……ないな、ギル。あいつは馬鹿過ぎて、演技が出来るような利口な奴じゃない。ユウナもそうだ。だから俺達はそこが信じられる要素だとして、利用しようと思った。そうだろ?」
シバの落ち着いた声とその横目に、ギルはため息をつきながら肯定するように頭を掻いた。