この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第25章 出現
「話を戻す。だとしたら、やはり……こいつが言う通り、新祠官の仕業か。"国船"を作って、なんの大義名分でここに乗り込んで来たのか。目論見は、この男と同じ…、その…青龍の鍵だとかいう奴か? そのためだけにこれだけの大軍を率いてきたというのか」
呆気にとられたようなギルの声に、ユウナは訝しげな顔で考えた。
倭陵において4つの国の風土の特色に応じた戦術が、各国を守る警備兵の色となっている。
黒陵は山の国。山道を走り回れる足腰の鍛錬を中心に、足場と視界が悪い場所での接近戦を得意とする。
蒼陵は海の国。海の知識に秀でて、移ろいやすい蒼陵の気候を予測して、天候に左右されない船造りや船の運転に精通し、海での戦いを得意とする……といわれている。
そして4国間で絶対的不可侵の取り決めがあるために、他国の戦術を学ぶ必要が無く、もしも各国に起った問題で、他国の戦術を必要とする場合には、要請を受理した祠官の名において、武神将が率いる他国の警備兵が派遣される。
さらに倭陵では、その国の神獣の模様を、特産品などに刻むことは祠官の許可がなくとも認められているが、国の威信に関わる武器については祠官の許可が必要になっている。
勝手に国の神聖な模様を武器に彫り込むだけではなく、他人や他国を侵略する道具にした者には、極刑が下されるのが通例。
そこから考えれば、玄武の模様を彫り込んで大所帯で堂々と他国に乗り出すのは、余程の大馬鹿か国の中枢の輩しかいない。
船を整然と統率できているのなら、素人の大馬鹿の可能性は低い。これは戦いの玄人が率いていると考えた方が妥当だ。たとえば、武神将のような。
だがサクは自分と一緒にいるし、元武神将のハンは、祠官と武神将の特殊な結びつきによって自分達を殺す側になりたくないからと、リュカに抵抗してサクに武神将を譲り、自分達を逃がしてくれたのだ。
仮にハンが自分達を託したのはジウで、ジウに敵対するからと、この根城をなんとかしようと先頭にたって包囲をしているのだとしたら、ハンはこちらの出方を待つよりもまず、自らこの根城に出向き、交戦にならないように交渉にて平和的解決をする。そういう男だ。
ハンが統率していないのであれば、今、船を率いてこちらを挑発しているのは誰なのだろう。