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吼える月
第25章 出現
リュカ自ら…という考えに、ユウナは懐疑的だった。
どう考えても、倭陵の不可侵の取り決めを破って、山の知識に秀でた国が、海の国の得意武器にて威嚇するという無謀な侵攻をするなど、幾ら兵法を学んでいたとはいえ、智将とうたわれた文官がするはずはないように思えるのだ。
これは倭陵の法度に抵触すると、皇主に制裁をうけても文句をいえない危険な軍事圧力だ。国の存亡にも関わること。
……だがもしも、それを大義名分に利用していたとしたら?
たとえば――、
「……あの野郎の差し金か?」
ジウとリュカが手を結んでいたという可能性は……なくもない。
リュカは事前に蒼陵を訪れているのだ。
「蒼陵の祠官名で黒陵に海賊討伐の要請を出し、それで、青龍の鍵の在処とやらを聞き出したくて、一石二鳥とばかりに黒陵の新祠官はここを囲んでいるのか?」
ギルが次々と忌々しげに言い捨て、シバが眉間に皺を寄せて険しい顔つきになっている。スンユは無反応だ。
だが――。
「……リュカならば、そんなことはしない。リュカ自らが動く時は、自らの得意分野に持ち込むはずよ」
やはりしっくりこない。リュカにジウの頼みを聞かねばならないどんな義理があったとしても、海に精通している海賊に初めての船で、その数と砲筒で勝てると思うほど安直な男ではない。しかも婚姻直後のタイミングで。
「仮にジウ殿の要請があったとして、武装した船を五十も簡単に作れないわ。逆算すれば、時期的にジウ殿の要請はお父様やハンが知っていなければおかしくなる。ふたりならこんな無謀なことを受理しないわ。
それにジウ殿なら、自国の海賊を他国に要請せずに、蒼陵の武神将の名にかけて討伐に出てくると思うわ。こんな他力本願なことはしない。どんなに腐っていても、武神将の誇りはあるはず」
ジウはなぜこの根城に手を出さないのか。
なぜ青龍の力で制圧しようとしないのか。
青龍の力がなくなっていた……にしても、ジウには戦いの経験値が海吾の集団より遙かに高いのだ。命令で従う人間も多く居るはずで。
「う……」
「まあ、ユウナの言い分も一理あるな」
ギルとシバは、複雑そうに顔を見合わせた。