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吼える月
第25章 出現
「それと。黒陵には大々的な船の建設をしている場所も、安置場所もないわ。置ける可能性がある場所は、黒崙からこっちに向かったあの港があるけれど、港には停泊している大量の武装船などなかった。
だったら蒼陵が玄武の模様を勝手に彫って、黒陵の船に見せかけているという方がよっぽど納得いくわ」
「おいおい、俺達は海を巡回しておかしな動きがないか見張っているんだ。五十もある船を、たとえどこかの浮島で作っていたとしても、この望遠鏡があって、大勢で巡回していて、そんな大量の船を見逃すわけはねぇ」
「だったらどこから来たの、沢山の船。まさか他国からとか?」
「俺達の根城は、誰にも知られているってのか!?」
「だけどスンユは知ってたわよ」
「こいつがおかしいだけだ。普通はわからねぇ!! だからジウも攻めてこねぇんだよ!!」
くつくつ、
「おい、なにがおかしい、スンユ」
くつくつと喉もとで笑うのは、リュカと同じ顔を持つ黒き倭陵の民。
ギルは不愉快そうな顔で噛みついた。
「疑問疑問疑問。答えの出ない疑問ばかり生産するとは、随分と余裕だなと思って。武装した五十以上もの船をどう撃退するつもりなのかと思ったら、疑問の応酬ばかりがおかしくてね。子供に臨戦態勢を指示して大人は安穏と議論か」
「お前……っ」
「駄目、病人なのよ!?」
ギルがスンユの胸倉を掴みそうになったのをユウナが止めると、スンユは勝ち誇ったような顔をギルに向ける。
「だってそうだろう? このままでいけば、僅かな間で誰も知らないどこかで、五十もの船が作り上がったことになる。それを現実的に捉えようとするから結論が出ない」