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吼える月
第25章 出現
「大変なんだ、大変なんだよ、兄貴兄貴っ!!」
その時、イルヒが青ざめた顔で駆け込んできた。
「どうした!? 落ち着け!! 奴らが発砲してきたのか!?」
「違う、違うんだ、あいつら、あいつ…・・ううっ、うわあああああんっ!!」
「どうしたんだ!? 泣いてちゃわからん!!」
「ねぇ…スンユ。まさか、船にいるのは……」
「ふふふ、私の予想通りならばの話。娘さんも見たんだろう?
切っても切っても死なない、食いしん坊な悍しい者どもを」
「兄貴、ふ、船から海に……、海を泳いでっ!!」
「なんだ、魔魚でも放たれたのか!?」
「違うんだ、魚じゃないっ。あれは人間だけど人間じゃないっ!!」
「そんな、そんな……。なんで来たの……」
「"きぇぇぇぇっ"って変な声を出す、膨れあがった腹を持つ痩せ細った奴らが、海を泳いでこちらに向かっているんだ!!」
「なんで餓鬼が蒼陵に来ているの――っ!?」
くつくつくつ。
スンユは嘲るように笑った。
「餓鬼を消すのには神獣の力が必要だ。だがここには誰も神獣の力を持つものはいないようだ。……私以外は」
「あなた、餓鬼を消せるの!?」
「ああ。だから消す条件に、青龍の鍵を渡せ」
スンユは射るような鋭い目をシバに向けた。
「そうしたら、お前達を助けてやろう」
「消せるという確証がねぇ!!」
ギルの憤りに、スンユは愉快そうに笑う。
「ならば、そう思って餓鬼に食われるがいい。私はひとり餓鬼を消しながら、生延びようではないか。いずれ来る迎えを待ちながら」
「ぐっ……」
「じゃあなに、リュカはここにいる【海吾】を餓鬼の犠牲にさせるために来たというの!?」
黒陵だけではなく――!?